「御宿かわせみ」
平岩弓枝先生の「御宿かわせみ」というタイトルを、耳にしたことはありませんか。
平岩弓枝先生の代表作品の一つで、国民的人気を持つ大河小説シリーズです。
「御宿かわせみ」あらすじと設定の魅力
舞台は、江戸時代の大川(隅田川)のほとり。
小さい宿屋「かわせみ」を営むヒロインの美女・るいさん。その恋人の若き侍・東吾と、その親友の同心・畝源三郎。
宿の泊まり客が持ち込む問題を、八丁堀育ちの面々が協力して解決していきます。
ここでポイントなのは、るいさんは役人ではなく、あくまでも宿の女将ということ。
彼女は元々は八丁堀同心の娘でしたが、父の死をキッカケに武家を辞めて、町人になりました。
ですから役人の知識やノウハウ、人脈を持ちながらも、今は町人ということで柔軟な対応が出来ます。
行方不明の人を探したり、家庭内の揉め事を仲裁したり。
時には誘拐や盗賊の押し込み、辻斬りなど、大事に発展する時もありますが……そんな時は、剣の達人である東吾や、老番頭の嘉助さんが守ってくれます。
そしてるいさん自身も武家育ちらしく、小太刀の使い手。普段は淑やかな美人女将が、いざという時は小太刀を振るって勇ましく戦う。そのギャップが、魅了的なのです。
かわせみメンバーが挑む問題は、現代でも通用しそうなモノばかり。嫁姑の仲が悪く、板挟みになって苦悩する息子や、心に悩みを抱えて夢遊病になってしまった女性。我が子を宿に置き去りにして行く親がいるかと思えば、成さぬ仲の我が子の為に、全てを投げ出す親も。
いつの時代も、人間は変わらないのだと思い知らされます。
その中でも印象的な話の一つが、ある巻に収録された「鬼女の花摘み」という短編です。
甥と友人の子供を連れて、祭見物に出かけた東吾。三人はそこで、お腹を空かせて薄汚れた格好の、幼い姉弟を見かけます。二人に、自分の大福餅を分けてあげる子供達。
ところがその直後、現れた若い父親が、弟を足蹴にします。どうやら日常的に、虐待を受けているよう。
東吾達は心配しますが、両親は狡猾で、尻尾を掴ませません。そして、取り返しのつかない事態に……。
両親が揃っているのに、子供を引き離す難しさ。他人の家庭に踏み込めない、もどかしさ。
まるで、現代にそのまま当てはまるような、辛い話なのです。
第二の魅力は、恋模様。
そして、作品の第二の魅力は、恋模様です。るいさんと東吾の、身分違いの忍ぶ恋。東吾に片想いの従妹・七重の切なさ。東吾の兄・通之進と、妻・香苗の仲睦まじい生活。お互いに好きなのに言い出せない源三郎と、お千絵の恋。
どれも甘く切ない、悩み多き恋です(兄夫婦は除く)。
東吾とるいは幼なじみですが、与力と同心の家で、身分違い。ましてや今のるいさんは町人で、東吾は婿入りすると武士を捨てることになります。
そうさせたくないるいさんは、自分は身を退くべきかと悩みます。
東吾もるいと添い遂げたいけど、自分が継がなければ、兄夫婦に子が出来ない今、家が絶えてしまいます。
早く亡くなった父親の代わりに、自分を育ててくれた兄を悲しませたくない。板挟みの東吾も、なかなか辛い立場です。
そして兄嫁・香苗の妹は、東吾の幼なじみの七重。彼女もまた幼い頃から、東吾に想いを寄せていました。
そして七重の父親は、東吾を七重の婿にしたがっています。
七重は家格が釣り合う、旗本のお嬢さん。更に愛らしい美人で、気立ての良い女性です。
しかし東吾には、るいという心に決めた恋人がいて……恋心を秘めて耐える七重はいじらしく、彼女にも幸せになって欲しい。でも、そうするとるいさんと東吾が辛い……!
読者も、一緒にやきもきします。
また、ゲストの起こす騒動にも、恋愛絡みのモノが多くあります。
水戸の大百姓でありながら妻子を捨て、江戸で女と暮らす中年男。一人娘が悪い男に惚れて、金を貢いでしまった大店。義理の兄を好きになり、恋を成就させる為に、異母姉を手にかけた美少女。
それらの事件は、るいさんや東吾の目を通すことで一層際立ちます。
おすすめのお話し
私が特に印象的で好きなのは、ある巻に収録された「忠三郎転生」というお話です。
七重が何者かに拐われてしまい、東吾を始めとする面々は必死に探します。七重と共に拐われたのは、東吾の友人の医師・宗太郎。
敵の目的は七重を盾に、宗太郎に毒薬の文献を解読させることでした。
なぜ七重が盾になるのか、それは宗太郎が、秘かに七重を好いていたからです。
苦労人で腕利きの医師で、そしてユーモアがある美男の宗太郎。彼が逃げる時、宗太郎が七重の手を引いていたのが微笑ましくて、好きなお話の一つです。