お勧めの奈良市内の散歩道~元興寺となら町界隈~新薬師寺と高畑界隈~

奈良には各地に趣の異なる散歩道

奈良市内の観光や散歩としては、奈良公園周辺の興福寺・東大寺・春日大社の3社寺が余りにも有名です。しかし、3社寺を中心としたエリア以外にも、趣の異なる観光スポット・散策道があります。
その1つとして通称なら町と言われる界隈と、その中心にある世界遺産の構成要素の1つである元興寺を紹介したいと思います。

元興寺となら町界隈

なら町と言う行政区分上の町名はありませんが、奈良公園の南西側の町家が立ち並ぶエリアの通称で、最近では観光客も増えつつあるエリアです。
なら町へは近鉄奈良駅から東向き商店街・もちいどの商店街を抜けて南側に進んだ、古い町家をリノベーションしたお洒落なカフェや小物を売るお店等が点在し、小さな様々な私設の博物館等もあり、ぶらぶら散歩をしながら、そうした店を覗いて楽しむ事が可能です。
また、このエリアにある庚申堂の信仰の印である身代わり猿を軒先に吊るした住宅も多く、奈良の昔ながらの生活を垣間見ることも出来ます。

上記の様に町家が建ち並ぶなら町の中に、元興寺があります。
この元興寺はかつては広大な境内を持ち、南都七大寺にも数えられるお寺でしたが、現在ではこじんまりとしたお寺となり、世界遺産の「古都奈良の文化財」の構成要素の中では、最も知られていない寺院と言えます。
この元興寺は、日本最初の本格的伽藍を持った明日香にあった蘇我氏の氏寺である飛鳥寺が、平城遷都にともなって、官大寺として新築移転されたものです。この経緯から仏法元興の場と言う意味で元興寺と命名されたと言われています。

広大な境内を有する大寺であったものが、次第に伽藍は荒廃し、堂塔が分離して無くなって行きました。整備され現在残っているのは、極楽坊本堂と極楽坊禅室のみとなっています。両建造物はいずれも国宝に指定されています。

この国宝の極楽坊本堂と極楽坊禅室を見られる際には、屋根瓦に注目して下さい。屋根瓦を眺めると黒っぽい瓦に交じって茶色っぽい瓦がある事に気付かれると思います。茶色っぽい瓦は、建物の何度かの解体修理の際にも、使用可能な古瓦は使い続けられ、中には飛鳥時代からの瓦が含まれているのです。

またこの元興寺の境内には、多数の石塔や石仏が整然と立ち並び、元興寺全体を独特な雰囲気とさせています。これは、比較的最近の昭和63年に整備された浮図田(ふとでん)と呼ばれるもので、中世から江戸時代にかけての供養石造物を整備し直したものです。
この浮図田の石塔や石仏の傍らには、冬には水仙、夏には彼岸花、秋には桔梗と言った草花がお供えの様に植えられ、供養石造物群に彩りと季節感を与えています。
奈良観光のリピーターにはこの元興寺となら町界隈がお勧めの散策コースです。


新薬師寺と高畑界隈

奈良公園周辺の3社寺以外のお勧めの観光スポット・散歩道のもう1つが、新薬師寺と高畑界隈です。
高畑エリアには、市内巡回バスで高畑のバス停に向かうか、徒歩なら東大寺の南大門からの道を南に向かい、右手に浮見堂を見ながら更に少し南に進むと高畑交差点に到着します。また春日大社からささやきの小道と名付けられた森林の中の小道を南に向かっても行く事ができます。

高畑町には土塀に囲まれた古い住宅や、新しい住宅が混在し、町家が建ち並ぶなら町とは異なり、静かで独特な雰囲気を醸し出しています。
この高畑で有名なのが志賀直哉の旧邸や、その隣にあるかつて文化人が集った庭園カフェが有名で、文化の雰囲気が漂う散策コースと言えます。この界隈には広い庭を持つ邸宅をカフェやレストランなどとしてリノベーションして利用している所が多く、散策に疲れたら静かな雰囲気の中で休憩するのも良いでしょう。

また寺院では新薬師寺が有名です。この新薬師寺は世界遺産の薬師寺とは全く異なる寺院です。新と言う名が冠されていますが、これは新しいと言う意味ではなく、霊験新たかと言う意味の新です。
新薬師寺の本堂には、薬師如来とそれを守護する十二神将が安置されており、この十二神将像は仏像ファンでなくても、その素晴らしさに感嘆する事でしょう。

また高畑町には、奈良大和路を撮影し続けた写真家の入江泰吉さんを記念して建設された「入江泰吉記念 奈良市写真美術館」があり、写真好きの方はもちろんの事、奈良大和路の素晴らしさに触れるスポットとして、こちらもお勧めです。
この建物の1階にはエントランスとカフェがあり、地下が写真ギャラリー室となっています。建物の南側には人口の小さな池が設けられ、ガラス張りのカフェから見ると、池と目線が同じとなり、池に浮いている錯覚を感じます。
この写真記念館の設計は黒川紀章氏で、建造物としても見るに値すると思います。新薬師寺のすぐ隣である事から、黒川氏によると歴史的な環境との調和に留意して、地上階を低く設計し、屋根は瓦葺きにする等、古都奈良のイメージにマッチするように配慮したと言われています。

奈良の中心市街エリアにも、奈良公園周辺の3社寺以外で、まだまだ観光客の少ない静かな散策道として文化の雰囲気が香る高畑町がお勧めです。